前立腺癌、重粒子治療体験記

前立腺癌と重粒子治療について、私の経験をお伝えして行きたいと思います。

280.私の会社員時代、やってらんない記憶.31

こう言った勉強ばかりで実践に何も役立てない社員はどうかと思いましたが、営業を頑張っているのだけどセンスの問題なのか性格の問題なのか、何処か的外れで空回り社員も結構いました。そんな困ったものなのに何故か憎めない連中の事を書こうと思います。

その営業担当は六大学出身の頭は中々切れる奴で、とにかく本が大好きと言う奴でした。しかし仕事は、普段からやる事がゆっくりと言うかのんびりと言うか、全てが遅めなのです。先輩達もそんな担当者に良くキレていました。ある日、先輩が私の事を呼びました。これ読んでみろ、と日報を渡すのです。そのリアクションが、笑っているのか怒っているのか微妙な顔だったので、私もなんだろうと、その日報を見ました。

私がまだ若い頃の日報はまだ冊子になっていて、その日の活動状況を手書きで記載する、ごく一般的な営業日誌でした。訪問件数、本日獲得案件、獲得内容、今後の予定、見込み顧客、最後にメモ欄があって、このメモ欄に収集した情報等を記載するのです。そのメモ欄を見ると、何とギッシリと書かれていました。中身を見る前に、凄いですね〜と先輩に言うと、先輩曰く、「こいつ、いつもこんな感じでメモを書いて来るんだ。だけど、内容は一言で済む位なんだよ」と言うのです。内容を見ると、確かにそれはまるで小説のようでした。

「本日は天気も良く気分も良かったので、朝一番に早速〇〇さんの所にお邪魔すると、思いがけない注文の話。これには今日の天気のように晴れ晴れした気持ちになり、、、」と、延々と綴ってあるのです。要は、〇〇さんから予定外の案件が取れた、と言うだけの話を、まるで小説のように書いているのです。これには私も笑ってしまいました。こんな事を書いてるから帰る時間遅くなるのかと思いましたが、この担当はこれ以外でも、稟議書の顧客の推薦書や担当者の所見もこんな感じだったので、全員から「もっと簡潔に書け」といつも怒られていました。しかし何故か憎めないそのキャラクター、私は、この人、小説家にでもなれば良かったのにと思ったものでした。

また、嘘で繕う担当者もいました。この頃の商品の売上の集金は既に振込が多かったのですが、それでも小切手や手形、現金の集金もまだまだありました。そして、良くその金額を間違え、請求書の金額と集金の金額が合わない事が多かった奴がいました。大体が夕方帰ってくると固まっている事が多く、何かあったんだと分かるのです。そしてその殆どが、請求書の合計と集金の合計が合わないのです。すると、大体が直ぐ上の先輩達が応援に入ります。私も良く応援の為にお金を数え直したり、小切手を再計算したりしていました。するとそう言った間も色々と思い出しているのでしょう、あの顧客で間違えたかも、この顧客で間違えたかもと言っていて、時には店を出て行く事もしばしば。そして足りない分の集金をして来たと言って、仕事を終わらせていたのです。

しかし、そんな事が度々続くと、当時の私のような中堅クラスでもおかしいと思うものなのです。この担当はとても明るくていい子でした。家は結構な地主、こんな所で働かなくたっていいのでは、と思うような地主の息子だったのです。当時、まだオタクと言われていたアニメのファンであり、そう言った所は私の鉄チャンと通じる所があり、私なんかは良く会話をして結構可愛がっていました。顧客の評判も上々、明るく憎め無いキャラクター、しかしこう言った間違いが多かったのです。そして多分、集金を間違えると、嘘を言って自分のお金で埋め合わせをしていたのではと思っていたのです。

ある日、同じようにお金が合わなかった日がありました。その日も何だかんだ言って店を飛び出し、無事にお金が合ったのでした。私はその時、会社が終わった後、飲みに誘いその事を確認したのです。すると、全てではないにしろ何回かは自分で埋め合わせていたそうなのです。私は加えて、お金が多かった場合の事を聞きました。するとこの子は固まってしまいました。当時はまだコンプライアンスが無かったとは言え、明らかになったら問題です。地主と言えばその土地の盟主です。その名に傷をつける事になってしまいます。そしてこの子も傷を負ってしまう事になります。こんな事を続けていると、そのうちに大事件を起こす事は目に見えていました。それだけは何とか避けたい。私は思い切って退職を勧めました。そして実家がしっかりしているのだから、好きなアニメの道に進む事を勧めました。こんな私が言うのもどうかとは思いましたが、当時は何か憎めないこの子を悪人にしたくないと思ってしまったのです。

そしてその数ヶ月後、その子は退職して行きました。これが良かったのか悪かったのか。暫く私は悩み、こんな事をして良かったのか自己嫌悪に陥ってしまいました。こんな事をした自分に、やってられないな〜、と思っていました。しかしそれから数年経ち、ある日ある駅で、偶然その子とバッタリ合ったのです。私は一瞬殴られる位の覚悟をしました。しかし、その子はあの時以上の屈託の無い笑顔で近づいて来て、あの時はお世話になったと、お礼を言われたのです。私の言葉で背中を押され、今はアニメの会社で頑張っているとの事。それはとても楽しそうでした。そして足早と電車に乗って行きました。これは本当なのかは分かりませんが、楽しそうな笑顔だけは事実だったのです。

人の人生は本当に分からない。今でもこれは正解だったのか、どこか疑問を感じています。

勉強は本来社会で役立てる為にする物ですが、意外とシンクロしている社員は少なく感じましたf:id:x-japanese:20220809231335j:image