前立腺癌、重粒子治療体験記

前立腺癌と重粒子治療について、私の経験をお伝えして行きたいと思います。

68.事件

この辺りになって来ると病院生活にも慣れて来て結構話をする人も増え、談笑できる様になってきました。

その中には地方から治療に来ていて、一時退院の時は東京のホテルに泊まって観光を楽しんでいる人や、娘夫婦の家に泊まりに行ってる人とか、治療の傍ら一時退院を楽しんでいる人もいました。そこで一杯飲んじゃったなどという人もいて、わりと緩い人もいるんだと思い、今まで死ぬ思いで照射を受けていた自分が少し馬鹿らしく感じる事もありました。

そして、ある日事件が起きました。いきなり同室の人が中途退院して行ったのです。看護師さんに聞いても原因は話してくれませんでしたが、同室の人の話によるとやはり照射時のあの絶対静止が耐えられなくなったようです。その時の病室内は一瞬ただならぬ雰囲気になりました。皆さんもやはりあの静止には相当参っているんだろうと、この時感じました。いつか自分もそうなるのではないか、と、自分自身も内心とても不安になりました。

その日はずっと、退院していったその後の治療はどうするのだろうと思っていました。確か重粒子治療は前立腺を焼くようなイメージなので、再発等の場合は手術での摘出が難しくなるという情報を見た事がありました。後はホルモン治療を始めるのか、他の人の事なので考えたところでどうしようもないのですが、自分は、ここまで来たらもう後戻りはしない、絶対に負けないと覚悟を決めました。

また、ある日、看護師さんから土日の外泊中にビールを飲んでいた患者さんがいて、先生から厳重注意を受けた話を聞きました。まさかあのお爺さんじゃないだろうな、と思いながら聞いてました。

また食堂の隣に特別な部屋があるのか、時折り、患者を乗せたストレッチャーが食堂の前を慌ただしく通り過ぎる事がありました。その時は患者の皆さんは、ただごとではないと一瞬シンとなって成り行きを見ている事もありました。やはりここは普通の病院ではない、正真正銘、癌治療の専門病院なんだという事を実感しました。

そんな色んな事が起きるたび、自分は真面目に頑張って治療に向き合って行くんだと思うようになりました。一瞬緩みそうになる心をリセットさせる事は中々大変ですが、とにかくこの治療を真面目に頑張って受け続ける事が回復への一番の近道だと思うようにして、あの地獄の静止も少しずつ我慢できる様になって来ました。

私達夫婦のお気に入り、伊豆下田の観音温泉f:id:x-japanese:20210328142239j:image