前立腺癌、重粒子治療体験記

前立腺癌と重粒子治療について、私の経験をお伝えして行きたいと思います。

50.照射を終えて

受付の椅子に座り込んだ私は暫く動けませんでした。緊張と恐怖から解放された事で、身体中に倦怠感が漂い、照射中の静止がかなりのストレスだった事が分かりました。

事前に調べていたにも拘らず、まさか照射がこれほど緊張感があるとは思ってもみなかった。ただ照射台に寝ていれば重粒子が癌をやっつけてくれる程度の認識でここまで来てしまい、以前の針生検の時もそうでしたが、自分の浅はかな部分がまたしても露呈してしまったと感じました。そしてこの時初めて治療する医師にも接し、大変そうな照射の調整作業を目の当たりにして、治療する方の目線にも立つ事が出来ました。

これはもっと真摯に、謙虚に治療を受けないといけない。あと11回もある照射をしっかり受けるべく、改めて自覚したのを覚えています。やはり癌の治療は生易しい物ではない、そしてこの病院の医師達が毎日たくさんの患者に対して、このような神業的な治療を正確に根気よく行なっている事にも、改めて感謝と尊敬の念を抱きました。大変なのは自分だけでは無い、今までは自分の事ばかりの一人称的な発想がこの照射を境に消え、治療する医師達の大変さも理解しないといけないと思うようになりました。そんな思いが頭の中を駆け回り、能天気な自分に対してまた自己嫌悪を感じてしまいました。

ようやく気持ちが落ち着き、病室へ戻る気力が出てきました。先程来た通路をゆっくり戻って行きました。病室に辿り着くと看護師さんがすかさずやって来て、労いの言葉をかけてくれました。初めてで慣れないから大変だったでしょうと、そのにこやかな笑顔には少し癒されました。自分は、昨晩あまり寝ていない疲れもあって、ベッドに横たわるとそのまま眠ってしまいました。気がつくともう夕食の時間となっていました。

晩夏の青森県奥入瀬渓谷f:id:x-japanese:20210325123858j:image