前立腺癌、重粒子治療体験記

前立腺癌と重粒子治療について、私の経験をお伝えして行きたいと思います。

38.初診の終了、再診

長い初診が終わりました。2人とも精魂尽き果てた感じでした。研究所内には、一般の人も入れる食堂や喫茶店もあるので、そこで少しゆっくりして帰る事にしました。緊張感の余韻がまだ残っているため食欲もあまり出ず、喫茶店に入る事にしました。ちょうど昼食の時間と重なり、そこには研究所や病院の職員らしき人がおり、中には外国人の人も結構いました。研究者らしき人が意見交換をしていたり、患者らしき人が治療の相談をしていたり、やはりここは世界的に見ても最先端な技術があり、世界中から人が集まって来るんだと実感しました。そんな感心をしながら食事を終え、気持ちも落ち着いて来たので帰る事にしました。我々は患者の駐車場では無く、車が置いてある職員の駐車場に向かいました。するとそこには大型バスが2台到着した所でした。中から中国の方達でしょうか、研究生らしき人達が降りて来て説明を受けていました。おそらく視察なのでしょう。ここは本当に凄い所なんだと改めて実感し、病院を後にしました。これだけの病院に受診出来てこれから治療を受けられると思うと、今までの苦労が実った事の感謝と、色々と調べたり意見をしてくれたり今日のようにいつも自分に寄り添ってくれた妻に対して感謝の念が湧いて来て、目頭が熱くなって来るのを感じました。今日はいい日になって良かったと思いながら家路に着きました。再診は、持ってきた治療情報の再検査の結果が上がってくる約3週間後。その時に検査の結果により入院治療の計画が説明されます。自分としては、もう法医研に受診出来たので安心していましたし、病状も初期の癌だと思っていたので、この再診は特に何とも感じていませんでした。いよいよ入院、そして治療が開始されるんだと、期待で一杯だったのを覚えています。そして再診の日、今度は電車で妻と行く事にしました。帰りに妻とどこかで一杯やっていこうなどと、呑気な考えで家を出ました。総武線快速に乗り稲毛駅で下車、病院まではバスもあるのですが徒歩でも10分程度なので歩いて行きました。暫く歩くとバス通りの左側に研究所らしき建物が見えてきて、その先に立派な正門が現れ、そこには量子科学技術研究開発機構やら放射線医学総合研究所だとか、重々しい銘板がいくつも設置されていて、とても一般人が近づくような場所ではない雰囲気でした。その銘板の右下の方に小さく病院の銘板もありました。初診の時はこれに気づかず、ここは研究所で病院では無いと思ったのを思い出したました。その正門を入り、ずーっと奥まった所に病院があります。全体の広さからしたら病院は小さく端の方にあり、この時、ここは病院がメインでは無く放射線の研究がメインなんだと思いました。この研究成果のお陰で私のような癌患者が救われていると思うと、研究者の方達に感謝せずにはいられませんでした。また、これも初診の時には気が付かなかったのですが、病院内には桜の木が結構あり既にほぼ散っていて、ちょうど初診と再診の間に満開になっていたようで、お花見が出来たらさらに気分が盛り上がったろうと思いながら、病院に入って行きました。

秩父鉄道のSLf:id:x-japanese:20210317135505j:image

37.重粒子治療について

インフォームドコンセントの時、改めて重粒子治療について詳しく説明されます。詳しくは病院のホームページ等で見ていただければ分かるのですが、この放射線重粒子線という種類の物が特殊な動きをするのを利用した治療法となります。この特徴は素人では到底理解出来ないと思います。なぜそんな動きをするのか、ピンポイントで患部を最大照射でき、他の放射線治療とは違い、身体に入射して行く時の周辺の臓器や皮膚、筋肉等のダメージが最小限に留められるのが最大のメリットです。痛さや気分が悪くなるような事も、毛髪が抜ける等のような事もありません。こんな物をよく見つけたものだと本当に科学の世界は凄いと思いました。しかし、それでも見えない身体の内部を照射する訳ですから、その患部だけの照射は中々難しい、また周りの臓器を傷つけない事に重点を置きすぎると患部が治療しきれず残ってしまう、この辺りが現時点でのジレンマであり、解決する課題となっているようです。主なデメリットは尿が出にくくなる事、これは次第に良くなってくるので心配は無いのですが、やはり一番のデメリットは隣接する臓器に影響が出てしまう事です。こうなると不幸ですが、その為にもしっかりと治療の心構えが必要と思いました。これについては日々研究が進んでおり、その為にも治療後の情報の提供はもちろん、この治療法に対しての協力等も依頼される事があります。私が受けた時は、患部を完璧に照射する方に軸足があり、その為、患部より多少広めに照射をするので、周辺臓器にも影響が出てしまうとの説明でした。主に影響がある臓器は前立腺に隣接している直腸と膀胱です。前立腺はくるみ位の大きさと言われています。身体の中にあり見えない前立腺目掛けて照射をする事を考えると、まさに神業的な治療なんだと思います。照射は左右の腰の辺りから交互に行うようです。要するに左右から6回ずつ病巣目掛けて照射を行います。そうする事により、他の臓器の負担を軽減させているそうです。今は12回照射ですが、将来的には4回照射を目指しているとの事です。そうすると、1週間程度で治療が終わるという時代がやってくるのでしょう。

埼玉県の東川の桜並木、延々5km位あります
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36.インフォームドコンセントについて

インフォームドコンセントについてもう少し詳しく説明します。診察が終わると、改めて地下一階の診察室で待つように指示されました。そして暫く待つと、物腰の柔らかな先生が現れ、診察が始まりました。この対応が診察とは違い、心理的に我々に寄り添ってくれるカウンセリングのように感じたので、私はあえてカウンセリングと呼びたいと思ってます。癌の発見から今に至るまでの辛さや大変さ等も聞いてもらう事ができ、こういった治療対応をして欲しかったと心底思いました。その後、改めて重粒子治療の特徴や治療方法、固定具の作成、入院について、治療情報の提供、そして最後に術後の生活について説明されました。またデメリットや術後の経過が良くない事例等の説明もされました。それに対するこちらの意見、質問にも真摯に対応してもらい、まさにインフォームドコンセントを初めて実感出来ました。しかし、ここで驚いたのが術後は自転車のサドル等の、椅子が固い物にまたがるような姿勢は絶対に取らないで欲しいという事でした。要するに前立腺の周りを圧迫するような事には今後十分注意して欲しいとの事でした。バイクもこれに準ずるようです。また長い間椅子に座る事にも十分注意する事、便秘や下痢にも気をつけて欲しい事等。この「絶対に」という言葉には、もうサイクリング等は出来なくなっちゃうのか、と結構ショックでした。また長い車の運転や、会社で長い間椅子に座る事にも注意が必要との事でした。これについては事前に分かっていましたが、実際にはそれ程でも無いのだろう、わざとオーバーに書いてあるんだろう程度に思っていたので、ここまでキッパリと言われると一瞬、治療への決心が揺らぎそうになります。しかし、ここまで来て中断という選択肢は無いと思い、覚悟を決め重粒子治療を受ける事を決めました。

埼玉秩父羊山公園にある芝桜の丘f:id:x-japanese:20210317083822j:image

 

35.初診

思ったより少し早く着いたのですが、ちょうど受付開始となった所で、名前を告げ初診に来た旨を伝えました。一通りの書類の記載が終わり、前もって健保に申請していた「高額医療限度額適用認定書」を提出しました。これは一旦医療費を払って後で申請してもいいのですが、後で戻ってくるとはいえ数百万というお金を用意するのは大変なので、是非申請しておくべきと思います。これには申し訳ない気持ちと解せない気持ちがありました。私はがん保険に加入しており先進医療までカバーされていたので、健保に負担させず保険会社に負担されられないのかと思いました。結局確認する時間が無く、初診まで来てしまったのですが、保険適用になったが為に健保に莫大な負担をさせてしまう事になった事になんかスッキリしない感じがありました。この診療費は本来保険会社が支払う物だったはず。このような時にはどちらに支払いをしてもらうか指定させられる制度が出来れば、この国の健保も助かるのではないかと思いました。受付が終わると、持ってきた診療情報を提出するよう指示がありました。その後は待合室で待つように指示され、待合室へ。法医研は予約診療の為、待っている人は少なく、直ぐに呼ばれるのかなと思いましたが、ここで結構待たされました。そしていよいよ名前が呼ばれ診察室へ。やっとここまで辿り着けたかと、その時は感無量な気分でした。診察は、私からは今までの経緯の説明、重粒子治療を受けたい旨の説明をしました。先生からは一通りの重粒子治療の説明や法医研での治療方法の説明、入院の説明、持参した診療情報を再度検査し正確な判定をした後、治療計画を立てる事等の説明をされました。その後診察は一旦終わり、その後、別の診察室で再度診察があるので待つように指示がありました。これはインフォームドコンセントといい、病院と患者の意思疎通の為の話し合いのような感じです。指定された場所でまた暫く待った後、別の先生が来て、重粒子のメリット、デメリット、重粒子の経緯と現在の成果、治療後の生活、研究材料としての協力等の話があり、最後に治療を受ける最終確認をされ、終了となりました。かなりの時間が経っていたので、私達2人は結構グッタリ状態。しかし、納得した説明、対応であったため、改めてここでしっかり治療に専念する決心がつきました。最後に看護師が、法医研の今後の研究のため治療情報を提供して欲しい依頼があります。治療の経過観察を研究に活かす為治療の個人情報を提供する訳なので、個人の了承がいるようです。私はもちろん了承しました。

菜の花満開の新春の千葉館山から望む富士山f:id:x-japanese:20210316231505j:image

34.法医研への道

3月、年度末も推し迫る中、待ちに待った初診日。この日は朝からソワソワ、診療情報は持ったか、保険の書類は持ったか、色々まとめたノートは持ったか等、はやる気持ちを抑えてました。この日は年度末が迫る中々休みが取りづらい日でしたが、有休を取らせてもらい法医研に向かいました。我が家から法医研までは電車では2時間以上かかります。車でもその位はかかりそうだったのでどちらで行こうか迷いましたが、その日はあまり人と接したく無いだろうと思い、車で向かう事にしていました。もちろん妻もついて来てくれました。こんな朝早い時間に千葉県まで車で行くなんて、子供達がまだ小さい頃、家族でよくディズニーランドに行ったよな〜、なんて懐かしい場面を思い出しました。こんな時に楽しかった事を思い出すなんて、これは幸先がいいんじゃないか、なんて勝手に思って家を出ました。天気は快晴、そして思った通りに道は順調で気持ちよく、妻とドライブを楽しんでいる感じで、予想より早く着いてしまいました。しかしナビ通りに来ているのに中々正門に辿り着きません。周辺をぐるぐる周っているうちに、通用門らしき物が開いていて数台の車が入っていくのが見えたので、自分もそれについて入ろうとしたところ、そこは職員専用の駐車場でした。しかし守衛さんは私が初めてと知ると、次回は正門から来て下さいと言って通してくれました。正門は反対側に立派な物があり、わざわざ来ずらい駐車場に何で来たのか守衛さんも不思議だったと思います。それだけ法医研が広大でナビがあったにも拘らず道を間違えてしまったのです。その広さに圧倒されながら車を置き、何とか病院棟に辿り着きました。病院棟は薄いピンク色の5階建てビルで、可愛い感じだけど独特の造りをしており、優しく大きく出迎えてくれるようで、よろしくお願いしますという気持ちを込めて入って行ったのを覚えています。

伊勢神宮の内宮f:id:x-japanese:20210316225121j:image

33.ホルモン療法

私の場合、女性ホルモンを投与されたので、その副作用としては所謂女性化が挙げられます。女性らしく丸みを帯びてくるようで、胸も含めふっくらした感じになると専門誌に記載されています。私は身体が大柄な方なので女性化はちょっと耐えられないかな、などと思っていました(笑)。またこれは嬉しい事で髪の毛の増毛等の記事もありました。怖い副作用では肝機能障害等が挙げられます。3ヶ月も服用するとなると、それなりの症状が出て来るのだろうと思い、折角なので自分なりに観察してみる事にしました。幸い肝機能障害等は出ませんでした。先生から生活面の指示は特に無かったのでいつものようにお酒を飲んでいたので、肝機能は若干気にしていたので良かったです。最初の方は特に変化は無かったのですが、日が経つに連れて、何となく特に胸の辺りにふっくらした感じが出てきました。それ程大きくはなりませんでしたが、確かに服用前よりはふっくらした感じはありました。身体の丸みについてはランニングを欠かさなかったからか、殆ど出ませんでした。特筆すべきは髪の毛でした。私はこのところ頭の毛が少しお寒い状況になりつつあって、色々努力をしておりました。しかし中々効果は現れず、悲しい気持ちになっていたのですが、それがこのホルモン剤の服用の効果か、少し髪が生えて来ているのが分かりました。妻もこれにはとても微妙なリアクションをしておりました😅。法医研の初診までのこの3ヶ月間、癌の進行を抑える為の薬の服用ですが、目に見えて効果が見えて来る訳でも無く何だか騙されているような感じでしたが、子供達も含めて私の頭髪がどうなっているか、毎日のように面白おかしく過ごせたのが思わぬプラス効果でした。この期間は家族の間にも久しぶりに笑顔が戻って来ていました。しかし、これは遊びでも実験でも無い。時には皆が寝静まった夜には1人で急に不安になり、早く治療に入りたいと初診の日をひたすら待つのがキツくなる事もありました。そんな複雑な時間が過ぎ3月になり、治療前の最後の検査と診療情報を貰いに診察に行きました。いよいよ法医研の初診日を迎えます。初診日が近づくに連れ、緊張感が高まって行ったのを覚えています。

家の近所の私設梅園f:id:x-japanese:20210316162819j:image

32.診療費について

1月に入り、前回保留としていた投薬の事も含めて、指示された日に診察に行きました。またこの時は、法医研に持っていく為に、今まで検査した治療情報を準備してもらう依頼もしなければなりませんでした。これが無いとどうしようもない、これが最後だという気持ちで、重い腰を上げるよう診察に行きました。相変わらず先生はホルモン薬の投薬の話をしてきます。この時は何だか治療情報が人質のように感じ、この辺は折れておかないとまずいかな、みたいな気持ちになり、仕方無しに薬の処方を受ける事にしました。これが結構高かったのでびっくり。今までは検査はあっても投薬は無かったので、この辺りはノーマークでした。考えてみれば、法医研までの初診の時まで3ヶ月近くあり、その分薬の量も増えるわけなので当たり前と言えばそうなのですが、薬局で会計した時に一瞬耳を疑いました。今まで薬局に来る事といったら風邪ひいた時の薬程度で、せいぜい千円から2千円程度でしたから、この時の万単位の請求書には本当にビックリしました。この時は病院でも結構な診察料でした。さらにこの病院は一般の診療の会計は現金のみの支払いだったので、手持ちのお金は数千円しかありませんでした。最近は薬局でもクレジットカードも使えるので事なきを得ましたが、こういった所も説明が足りないよなと思い、また信頼関係が無くなっていく感じがしました。因みにこれまでの診察料は検査とかして多い時で2万円弱、普通の時は3から5千円って所だったでしょうか。癌と診断されてからは検査が多かったので結構懐具合が痛かったのを覚えています。この辺り、がん保険である程度補填が出来たので、保険の有り難さを実感した時でもありました。ところでこのホルモン療法ですが、法医研の初診までの約3ヶ月間飲むように処方されました。事前に調べた情報では、前立腺の癌は男性ホルモンの影響を受けて増殖します。それを抑える為に女性ホルモン等を飲む訳ですから、男性の身体にはそれなりの変化が現れると書いてありました。これがあって中々気が進まなかったのですが、ここまで来ると逆に開き直って、どんな症状が出て来るのか検証してやろう位の気持ちになっていました。

埼玉県秩父芦ヶ久保の氷柱、夜がオススメf:id:x-japanese:20220131075508j:image