続いてこれも私の先輩の話。この事件は全社的にも結構な騒ぎとなった事件で、詳細については不明な部分もあるのですが、何ともやるせない出来事でした。この先輩は、私が新人の時に色々とお世話になった人でもあり、しかし少しお節介な所とスタンドプレーがある人でした。しかし、どちらかと言うと順調に出世して、数店舗の店長も歴任。そして役員も目前という時に、事件は起きたのでした。
ある日、一通の苦情の手紙が本部に届きました。それはこの先輩が店長を勤める店に対してでした。内容は商品の販売の相談に店に訪れたのに、誰も対応してくれず、冷ややかな対応だったとの事でした。そしてこれが、まさにコンプライアンス規定が始まったその時だったのでした。手紙は当然に社長に報告されます。社長の目に触れてしまった第一号だった事から悲劇が始まりました。早速、調査が開始されました。本部のコンプライアンスの部署が動き出しました。その時の店の受付対応を、隈なくチェックします。しかし、その苦情があったような顧客をその頃に目撃した社員はおらず、全員に確認してもそのような顧客は来店されていないというのです。
これはいくら調査してもそうだったようでした。当時は既に防犯カメラ等も設置されており、それも隈なく検証したのですが、そのような顧客の来店は確認出来ませんでした。その後、その手紙は差出人が不明である事が分かります。これでは本当の苦情なのかも怪しいのです。しかし、コンプライアンスの部署も初めての事案、初めての対処なので、どうしたらいいかもハッキリしません。またこの時の責任者は信じられませんが、例のバカ店長です😵。時間ばかりがどんどんと経過して行きます。すると社長からの確認の連絡が入って来ました。コンプラの部署は店長に、とにかく社長に謝りに行けとの指示。仕方なく店長はある朝、直々に社長に会いに行きました。
しかしそれが裏目に出でしまったのでした。社長は、報告が遅い事と検証結果がまだ出ていない事に怒り心頭になってしまい、この店長はその場で怒鳴られる事になってしまったというのです。そしてこれがキッカケなのでしょう。その後、この先輩は役員になる事は無く、その後は本部に異動してそのまま定年まで勤め退職。何かとてもやるせない結末となってしまいました。この先輩も、あのバカ店長の被害者だと思うと、本当に怒りが込み上げて来ます。
私が思うにこの手紙、差出人が不明という事自体、何か怪しい匂いがします。またコンプライアンスの部署が出来た正にその時だったのも、タイミングが良過ぎると思います。そしてこんな不透明な苦情は、本来は話半分で済ませる事案だと思います。確かに改めるべき所は改めて真摯に受け止める必要はあると思いますが、それ以上でもそれ以下でもありません。今の匿名のSNSと同じ感覚です。また、もしかしたら、この店長をはめようとしている悪意ある手紙かも知れません。とにかく、こんなにも会社の為に頑張って来た人を、こんな手紙一つでその後の人生が狂わされてしまった事に、私は何とも言えない憤りを感じずにはいられませんでした。
そして次の事案も、個人情報がうるさくなり始め、個人情報保護法が出来たばかりの頃の、間が悪い事件でした。これはゴルフの会での話です。ゴルフは朝早い為、一旦会社に出勤していたのでは間に合いません。当然に前日は準備していた物を会社の車に乗せて自宅に帰り、当日は自宅からゴルフ場へ向かうのです。主な所有物は、地図、当日の組み合わせ表、賞品、自分がプレーする場合はゴルフクラブ、着替え位でしょうか。当時、賞品は商品券等の金銭もあったため、これは自宅で保管するよう指示がありました。しかし組み合わせ表などは、名前とハンディしか書いてない為に、大体が車の中に置きっぱなしの事が多かったのです。しかし個人情報がうるさくなると、これもその対象となってしまいます。そしてこの先輩は、それをうっかりして、今まで通りに車の中に置いたままにしてしまったのです。
この先輩、とても頭の切れる人で、店長はもちろん将来が約束されているような人でした。営業成績も絶えず上位におり、当たりも柔らかく後輩達や女性にも人気がありました。そして事務面もしっかりしており、返って事務部の連中よりも詳しい位な先輩だったのです。しかしある日、このゴルフの会の日に事件が起こります。何と駐車場に停めておいた車が車上荒らしに遭ってしまったのです。しかし賞品や自分のゴルフバック等は自宅にあった為、被害は無く、車内に置いてあった組み合わせ表だけが無くなっておりました。
とりあえず警察に連絡して、その後ゴルフの会を終わらせ会社に戻ると、会社は大騒ぎになっていたと言うのです。警察から会社に連絡があったようで、既に本部の検査部が来ていたと言うのです。先輩は被害は無かったと報告したとたん、組み合わせ表が個人情報に当たるとして、「個人情報紛失事件」として扱われてしまったのでした。その後、検査部からはその時のヒアリングが行われ、その後に処分が発表になりました。何と関連会社に出向の処分がなされました。その後は全く名前を聞かなくなり、おそらくそのまま退職してしまったと思います。これを見て、私は勿体無い人を無くしたと思いました。
今でもこのゴルフの組み合わせ表は個人情報なのかとても疑問です。名前とハンディキャップで誰を確定できるでしょうか。この辺りも個人情報自体があやふやです。当時、会社内でもこの個人情報については様々な見解がありました。しかし運用が始まったばかりの頃と言うのは、対応する部署も暗中模索状態です。更に当時の責任者は最悪なバカ店長。前述の店長も同様、コンプラや個人情報保護の黎明期の犠牲者としか思えない、とてもいたたまれない出来事でした。
いい天気のゴルフは本当に最高。気のおけない仲間なら更に最高ですね